
仕事も遊びも全力で。
これは、私がずっと大切にしているモットーだ。
私にとって、専門家として没頭する時間と、仲間と笑い合う時間は、決して切り離されたものではない。なぜならそのどちらもが、お客様やパートナー、そしてそのご家族といった大切な人たちと、より深く、より人間らしい「濃厚な関係」を築くための、かけがえのない舞台だからだ。
そして、その素晴らしい関係を築く上で、一杯のワインがもたらす魔法を、私は信じている。適度なワインは思考を柔軟にし、場を和ませ、仕事のパフォーマンスさえも引き上げてくれる、最高のパートナーなのだ。
だから「ワインを片手に、フルーツを味わいながら走る」と聞いた時、これ以上に私らしいイベントはない、と直感した。
その名は、「フルーツ&ワインマラニック」。 マラソンとピクニックを掛け合わせたこのイベントは、単にタイムを競うのではなく、開催地の食や自然、そして人々との交流を心ゆくまで楽しむ、いわば「走るお祭り」だ。
一見クレイジーに思えるこのイベントに、私がなぜこれほどまでにハマるのか。 その理由は、単に「楽しい」からだけではない。そこには、私の仕事観や人生観にも通じる、豊かで幸せな時間へのヒントが、たっぷりと詰まっているのだ。

いざ、ごちそう溢れる仁木町へ
イベント当日の仁木町は、晴れ間からのぞく日差しが暖かく、雲がそれを優しく遮ってくれる、走るにはまさにうってつけの空模様だった。暑すぎず、寒すぎず、肌を撫る風が心地よい。絶好のマラニック日和とは、このことだろう。会場の周りには、たわわに実をつけたリンゴやブドウの果樹園がどこまでも続き、豊かな大地の香りが鼻をくすぐる。
今回のマラニックには、公私ともに尊敬する、各方面で活躍するエネルギッシュな仲間たちと参加した。初出場の私とは違い、メンバーの多くは常連のようで、あちこちから「〇〇さん、頑張って!」と旧知の参加者たちがひっきりなしに声をかけてくる。まるで人気者のパレードのようで、その輪にいるだけで自然と笑顔がこぼれた。
仕事の現場では百戦錬磨のリーダーたちも、今日ばかりは童心に返った少年のよう。これから始まる非日常の体験に、誰もが心を躍らせているのが伝わってくる。
もちろん、私の胸も高鳴っていた。 このコースの先々で待ち受けている、完熟フルーツの甘い香りや、地元ワイナリーが誇る芳醇な一杯を想像するだけで、足取りは自然と軽くなる。仁木町という素晴らしい舞台を、仲間と共に味わい尽くす。こんなに贅沢な遊びがあるだろうか。
高らかな号砲が、お祭りの始まりを告げた。 さあ、最高にクレイジーな「ごちそうマラソン」のスタートだ!

これはマラソンか?美食の旅か?
スタートの号砲とともに、仲間たちと軽快に走り出す。 コースの両脇には、どこまでも続くブドウ畑やリンゴ畑。豊かな大地の恵みに抱かれながら走る爽快感は、それだけでも格別だ。しかし、このマラニックの本当の主役は、タイム表示の時計ではない。コースの先に待ち受ける、エイドステーションの看板だ。
11キロのコースに、なんと7箇所ものエイドステーション。だが我々は、より効率的に「ごちそう」にたどり着くための戦略的ショートカットを選択し、珠玉の5箇所を巡ることにした。そう、これはタイムを競うレースではない。仁木町の美食を味わい尽くす、大人のための冒険なのだ。
最初のエイドで待ち受けていたのは、太陽の光をたっぷり浴びた完熟ミニトマトと、濃厚なフルーツジュース。汗をかいた身体に、自然な甘みが優しく染み渡っていく。
そして、次なるエイドで、私たちの目は点になった。
「え、嘘だろ…?」
そこに広がっていたのは、湯気の立つ焼きたてのピザと、本格的なパスタが並ぶ光景。もはやここは給水所ではない。青空の下のイタリアンレストランだ!
仲間たちと「これ、マラソンだよね?」「いや、移動式レストランだよ!」なんて冗談を言い合う。そして頬張った一口に、私は更なる衝撃を受けた。 つい数週間前まで、私は食の都イタリアを旅していたばかりだ。本場の味を記憶しているはずの、その舌が叫んでいる。「うまい。これは、ひょっとするとイタリアで食べたものより美味しいかもしれない…!」と。
そしてもちろん、主役のワインも忘れてはいない。 仁木町産のワインを片手に、仲間と交わす乾杯。汗をかいた身体に、キリリと冷えた一杯が染み渡る感覚は、まさに「最高にクレイジー」の一言。こんなに美味しいワインが、人生にあっただろうか。
最後の仕上げは、ひんやりと甘いジェラート。 これはマラソンではない。仁木町の恵みを、仲間との笑い声をスパイスに、全身で味わい尽くす「走るガストロノミー」なのだと、心の底から確信した。

最高の仲間と、最高の乾杯
満腹のお腹を抱え、ほろ酔い気分でたどり着いた最終盤。遠くにゴールゲートが見えてきた。
「あと少し!」
「いやー、食った飲んだ!」
誰からともなく声が上がり、笑いが弾ける。
タイムなんて、もうどうでもいい。私たちはゴールゲートの少し手前で立ち止まり、満面の笑みで肩を組んだ。そして、スマートフォンのインカメラに向かって、パシャリ。この最高の瞬間を、最高の仲間たちと共有できたこと。それこそが、何よりのメダルだ。
物理的なゴールテープはなかった。けれど、私たちはお互いの健闘を称え合い、ハイタッチを交わした。共に走り、食べ、笑い合ったこの時間そのものが、目には見えない、しかし確かなゴールテープとなって、私たちの心を結びつけていた。

本当のゴールは、この先にある
マラニックの喧騒が心地よい余韻となる頃、私たちは車に乗り込み、もう一つの目的地へと向かっていた。ショートカットしたために立ち寄れなかった、友人が営むワイナリーだ。
彼の案内で、夕暮れに染まる美しい葡萄畑を歩く。そして、これから生み出されるワインが眠る場所で、熱っぽく語られる未来のビジョンに耳を澄ませた。どんな哲学で、どんな一本を作りたいのか。その真摯な言葉と瞳に、私は深く共感し、心を揺さぶられた。
この瞬間に、私がこのイベントにハマる本当の理由がわかった気がした。 モノやサービスを消費するだけではない。その背景にある物語を知り、作り手の夢に触れ、ファンとして応援する。これこそが、人生を豊かにする「濃厚な関係」なのだと。
仁木町の友が夢を語るように、私の胸にも新たな夢が灯る。いつか、ワインマラソンの聖地、フランスのメドックマラソンへ。
挑戦する仲間がいるから、自分も次の挑戦へと向かえる。
仕事も遊びも全力で。私の人生というマラソンは、最高の仲間たちと共に、まだまだ続いていく。
