音の正体
ある音響の専門家の方から、非常に興味深い話を伺ったことがあります。
「この世に『汚い音(周波数)』というものは存在しない」と彼は言います。 どんなに耳障りな音であっても、その周波数自体が『悪』なのではありません。 ただ、隣り合う音との波長が合わず、干渉し合った時に「うなり」や「不協和音」が生じる。私たちが不快さを感じるのは、その音単体ではなく、「関係性」に対してなのだそうです。
この話を聞いた時、私の頭に真っ先に浮かんだのは、コンサートホールではなく、企業の組織図でした。
組織内のノイズ
経営者の方とお話ししていると、必ずと言っていいほど「人」の悩みが話題に上ります。 特に多いのが、「能力は高いのだが、周囲と衝突ばかりしてしまう社員」の扱いです。
正論を言うけれど、攻撃的。
成果は出すけれど、協調性がない。
独創的だけれど、ルールを守らない。
こうした人材は、組織の和を乱す「ノイズ」として扱われがちです。 周囲からのクレームに疲弊した人事や現場マネージャーは、やがてこう結論づけます。 「彼はウチのカルチャーには合わない。辞めてもらうしかないだろう」と。
排除するのは簡単です。しかし、少し立ち止まって考えてみたいのです。 それは本当に、彼という「音」が悪かったのでしょうか?
指揮者としての視点
もし私たちがオーケストラの指揮者だとしたら、どうするでしょうか。 素晴らしい音色だが個性の強い楽器があった時、その楽器を破壊してステージから追い出すでしょうか。
恐らく、そうはしません。 隣に置く楽器を変えたり、演奏するパートを変えたりして、その個性が活きる「全体の中での位置」を探るはずです。
経営における「配置(アサインメント)」とは、まさにこの「調律」の作業です。
同質性の高い、似たような「音」ばかり集めれば、確かに不協和音は消えます。 会議はスムーズに進み、阿吽の呼吸で仕事は回るでしょう。居心地の良い、静かな組織です。 しかし、そこから新しい音楽(イノベーション)は生まれません。
イノベーションとは、異質なもの同士がぶつかり合い、新しい響きが生まれる瞬間に立ち上がるものです。 今、御社で起きている「不協和音」は、組織が次のステージへ進化しようとしている「産みの苦しみ」かもしれないのです。
排除の前に、調律を
「あいつは扱いにくい」とレッテルを貼る前に、視点を「個人の資質」から「関係性のデザイン」に移してみませんか?
直属の上司を変えてみる。
あえて、全く違うタイプのメンバーとペアを組ませてみる。
既存の部署ではなく、特命プロジェクトに配置してみる。
人間を変えることは至難の業ですが、配置を変えることは、経営者の一存で明日からでも可能です。
もし、社内にくすぶっている「異質な才能」があるなら、それは宝の持ち腐れならぬ、楽器の弾き損じかもしれません。 どう配置すれば、その不協和音が美しい和音に変わるのか。 もしよろしければ、組織図を広げながら、一緒に「調律」の可能性を探ってみませんか?