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【縄文紀行】5000年の執念と技術。国宝・火焔型土器が教えてくれる「日本の原点」

東京への出張の折、少しだけ足を延ばして新潟へ向かいました。 今回の旅の目的は、私の密かなライフワークでもある「縄文の国宝探訪」の総仕上げです。

縄文時代の国宝といえば、「縄文のビーナス」や「仮面の女神」など5体の土偶がよく知られていますが、私が今回目指したのは、唯一現地で対面できていなかった土器の国宝です。

新潟県十日町市の笹山遺跡から出土した、計57点にも及ぶ国宝「深鉢形土器群」。そこには象徴的な「火焔型」だけでなく、優美な「王冠型」なども含まれます。これらすべてを現地でこの目で見るために、雪国へと向かいました。

併せて、日本の国石である「ヒスイ」の聖地・糸魚川のフォッサマグナミュージアムや長者ヶ原考古館にも立ち寄り、5000年前の日本人の精神性に触れる旅となりました。

静寂の雪国と、爆発するエネルギー

十日町市博物館「TOPPAKU」に到着すると、雪をイメージさせる白く美しい建物が出迎えてくれます。しかし、その静謐な外観とは裏腹に、館内で待っていたのは圧倒的な「熱量」でした。

▲十日町市博物館「TOPPAKU」

雪国らしい白を基調としたモダンな建築。この静寂の中に、縄文の熱量が保存されています。

展示室で対面した国宝・火焔型土器。 ガラスケース越しでも伝わってくる、その造形の凄まじさに息を飲みました。器の縁から立ち上がる鶏のトサカのような突起、うねる隆線。実用性を遥かに超えたその姿は、現代のアートさえも凌駕する迫力があります。

▲国宝・火焔型土器(笹山遺跡出土)

燃え盛る炎のような突起は、雪国の静寂に対する生命力の爆発のようにも見えます。実用性を超えたこの造形に、5000年前の精神性が宿っています。

3メートルの雪壁と、縄文の美意識

十日町は、世界有数の豪雪地帯です。 記録を紐解けば、昭和20年には観測史上最高の4メートル25センチを記録し、現代においても山間部では3〜4メートルの積雪となることが珍しくありません。

家の2階までもが雪に埋もれ、外出さえままならない冬。視界はすべて「白と黒」の無機質な世界に閉ざされます。 ふと、この圧倒的な「雪の壁」があったからこそ、あの情熱的なデザインが生まれたのではないかと思索を巡らせました。

一年の3分の1を、雪という「白い闇」に閉じ込められて過ごす縄文人たち。 視覚的な刺激に飢え、抑圧されたエネルギーは、すべて手元の粘土へと向かったはずです。彼らは無意識のうちに、白銀の世界に対する反動(カウンター)として、土器に「燃え盛る炎」や「躍動する生命」を求めたのではないでしょうか。

降り積もる雪の圧力に抗うように、上へ上へと伸びていく突起。 関東や東北の土器とは明らかに違う、この地特有の過剰なまでの装飾は、豪雪という環境が生み出した「魂の叫び」だったのかもしれません。

また、笹山遺跡の国宝は「火焔型」だけではありません。対をなすように存在する「王冠型土器」も見事です。

▲国宝・王冠型土器

「火焔型」と同時期に作られたもう一つの傑作。燃え上がる動的な火焔型に対し、こちらは王冠のような装飾が施され、凛とした品格と静的な美しさを湛えています。

「非効率」の先にある、技術の極み

旅のもう一つのハイライト、糸魚川では世界最古のヒスイ文化に触れました。 世界一硬い石と言われるヒスイ。それを加工するための「敲石(たたきいし)」の展示を見て、気が遠くなるような衝撃を受けました。ダイヤモンドカッターもない時代、彼らはただひたすらに、硬い石で硬い石を叩き、磨き続けていたのです。

▲世界最古のヒスイ製敲石(長者ヶ原考古館蔵)

硬いヒスイを加工するための道具です。現代の研究開発にも通じる、素材と向き合う「執念」と「技術の原点」がここにあります。

現代のビジネスにおいては、何よりも「効率」や「スピード」、「ROI(投資対効果)」が求められます。しかし、縄文人たちの仕事はどうでしょうか。 生活用具である土器に過剰なまでの装飾を施し、気の遠くなる時間をかけて石を磨く。一見すると、これらは最も「非効率」な行為です。

しかし、その「愚直なまでの情熱」と「妥協なき探究心」こそが、5000年の時を超えて人々の心を動かす「圧倒的な質」を生み出しました。

これは、現代の日本の技術力や研究開発(R&D)にも通じる話ではないでしょうか。 すぐに成果が出なくとも、ひとつの素材、ひとつの技術を突き詰める姿勢。その執念のような深掘りこそが、他国には真似できないジャパン・クオリティの根幹であり、イノベーションの正体なのかもしれません。

博物館の外には、火焔型土器を模したユニークなベンチがありました。

▲博物館屋外のベンチ

火焔型土器をモチーフにしたデザイン。5000年前の「美」は、現代の風景にも違和感なく溶け込み、私たちを楽しませてくれます。

雪国の冷たい空気の中で、古代人の熱い息吹と、現代にも通じる「モノづくりの魂」を感じた素晴らしい旅となりました。